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Column
リーダーとして生き残る技術
細川馨
2009.07.22

第1回 職場の荒廃、30歳の危機

細川馨

ビジネスコーチ(株) 代表取締役


私は多くの企業で、ビジネスコーチングを活用した、経営幹部・管理職向けの研修やセミナーを行っていますが、最近とても強く実感するのが、組織の中でのリーダーの役割が以前にも増してとても大きくなっているということです。未曾有の経済危機と言われる今、リーダーとして適切な技術を身につけなければ、リーダーも、そして組織も生き残れない状況にあるのです。リーダーが職場で生き残るためにどうしたらいいのか。今回から6回に分けて、「リーダーとして生き残る技術」について、ビジネスコーチングの観点からお話ししたいと思います。
世代間の仕事に対する姿勢の変化
「リーダーが生き残る技術」についてお話しする前に、まずは現在の職場がどのような状況にあるかということについて知っておく必要があります。今回はその点についてお話しします。

仕事に対する姿勢が世代間で大きく異なるという話をよく耳にします。特に若い世代には仕事とプライベートをはっきりと区別し、それぞれに集中して楽しみたいという人が増えています。現在のリーダーの方たちが20代、30代でバリバリと働いていたころには、仕事が終わらなければ、週末にも会社に出てきて仕事をすることが当たり前だったでしょうし、プライベートよりも仕事を優先させる人が多かったように思います。もちろん、現在の若い人の中にもそのように「仕事一筋!」の人もいますが、今はそれがスタンダードとは言えない時代になってきているのです。

同時に、若い人が上司に求めているものも変わってきています。少し前のことになりますが、今年3月18日に毎日コミュニケーションズが「<マイコミ内定者レポート>2009年入社予定内定者の意識調査」を発表しました。そこでは、2009年入社予定内定者が職場で上司にどんなことを望んでいるのかということが明らかになっています。

求める上司像については、次のような結果でした。
  • ミスをしても、叱らずやさしく指導してくれる上司が欲しい 54.4%
  • ミスをしたときは、きちんと叱ってくれる上司が欲しい 45.5%
理想の先輩像については、次のような返答でした。
  • しっかりしている人 29.4%
  • 前向きな人 24.2%
  • いつも笑顔を絶やさない人 21.3%
この結果から、上司や先輩に「厳しさ」よりも「やさしさ」を求める傾向が強いことが分かります。また、仕事を任せてもらって主体的に行動したいという願望よりも、人間的に魅力のある上司や先輩に丁寧に指導してもらうことへの期待が強く、受け身の姿勢が浮かび上がってきます。現在のリーダーの方たちが入社したころとは、状況がかなり異なるのではないかと思います。

このようにリーダーの方たちが新入社員だったときの仕事に対するスタンスや上司・先輩に求めていたものを、今の若い人たちに押しつけてしまうと、彼らは「ついていけない」と感じ、やる気をなくしてしまうかもしれません。自分が休日もいとわず働いていたからといって、それを部下に強要したら、部下は嫌な上司だと思うだけで、信頼を得ることはできないでしょう。部下を自分の価値観に合わせて行動させるという方法は、機能しなくなっているのです。そのギャップを認識していないリーダーが、今、職場で大きな問題を生み出しています。

職場の荒廃
また、職場の荒廃が進んでいるとも言われています。その原因はいろいろなものがあるでしょうが、私は多かれ少なかれ、1990年代から本格的に導入された成果主義が影響していると考えています。もちろん、成果主義がすべて悪いというわけではありません。成果主義というのは、本来は頑張った人の努力に報いるということで、組織を活性化する効用があります。頑張った人を適正に評価するということは、人々のやる気を引き出すものであり、良いことだと思います。

ただし、運用には十分な注意が必要です。短期的な利益だけで評価していると、評価できないものがたくさん出てきます。また、短期の数字ですべてが評価されるとなると、誰もが「俺が、俺が」という気持ちを持つようになり、みんなで何かをやって成し遂げるという、組織としてのまとまりに欠けてしまいます。多くの企業で成果主義が導入されていますが、「短期的な利益」のみで評価をする企業の職場はすさんでいる状況です。

ある外資系生命保険会社の役員の方と話をする機会があったのですが、彼は自社の部長たちの姿を見て、「自分のことしか考えていない」とこぼしていました。会社として短期の数字でしか評価しない仕組みになっているのが問題だと、率直におっしゃっていました。短期の利益ばかりが優先される成果主義の職場では、助け合いや協働するという意識が欠けてしまうのです。

心の病を抱える社員の増加
このような背景を受けてか、心の病を抱えている人が急増しています。先日、厚生労働省のまとめにより、2008年度にうつ病などの心の病で労災認定された人が269人だったということがわかりました。これは前年度を1人上回る過去最高の数字です。このうち未遂を含む自殺の認定は66人で、前年度より15人減りましたが、過去2番目に多いという結果になりました。

集計によると、精神疾患による労災申請は927人で、認定された269人を年代別に見ると、30代が28%、20代と40代が26%でした。自殺で認定された66人のうち、62人が男性で、年代別では50代が24人、40代が15人、30代が11人と続きました。あらゆる年代にわたっていることがわかります。

この数字は氷山の一角でしかないと私は考えています。「ハインリッヒの法則」というものがありますが、これは、「1件の重大災害(死亡や重症)が発生した場合、その背景には29件の軽症事故とともに、300件の"ヒヤリ・ハット"がある」という法則です。米国の損害保険会社に勤務していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が労働災害の事例統計を分析した結果から導き出したものです。

つまり、1人の自殺者や心の病を抱えている人がいる場合、ひょっとしたら自殺する可能性や心の病を抱えている可能性の高い人が29人いて、精神を揺さぶられている予備軍が300人いるということです。この法則から考えると、先日発表された人数の300倍(約8万人)以上の人が、何かしらの心の病を抱えていることになると推測できます。

30代社員の危機
心の病を抱えている層として特に増えているのが30代です。なぜ今、30代の社員に、心の病を抱える人が増えているのでしょうか?

私は、先にお話しした成果主義が大きな影響を及ぼしていると考えています。現在の30代は成果主義が本格的に導入された世代に当たります。先述したとおり、成果主義はうまく運用されればいい結果を生み出しますが、間違えると大きな弊害を生みます。成果主義が導入されたことにより、個人が短期的な成績を求められるようになったため、それぞれが自分の成績を上げなければならず、それに精一杯になり、先輩が後輩を指導・教育するという意識がなくなってしまったのです。

また、成果主義とともに、裁量労働制が導入されたのも問題を大きくしました。これは抱えている仕事が終われば早く帰っていいけれど、終わらなければいつまでも帰れないという制度です。仕事ができなければ、評価を下げられ、賃金も下げられてしまうので、がむしゃらに働くことになり、疲労感が深まっていったのです。

管理職の一歩手前である課長代理クラスの人に心の病を持つ人が集中する傾向があります。そのポジションにある人たちが成果を出すために必要なのは、上司や部下とのチームワークです。しかし、それを得られていないのです。30代は責任のある仕事をこなしていきながら、会社の将来を担っていくべき存在なのに、これが現状なのです。これは大きな問題です。

今回はリーダーが組織で生き残る技術を身につける前提として、現在の職場が抱える問題についてお話ししました。次回はこのような職場の状況を踏まえて、生き残る技術を持たないリーダーが、職場に与える影響に焦点を当てて解説していきたいと思います。
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著者紹介:細川馨
ビジネスコーチ(株) 代表取締役

1957年生まれ。外資系生命保険会社に入社し、支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立する。2005年にビジネスコーチを設立。ビジネスリーダー育成のスクールを主宰。著書に『「右腕」を育てる実践コーチング』(日本経済新聞出版社)『生保最強営業マンの実践コーチング塾』(日経BP社)『リーダーが実行する新ホウレンソウの本』『強いチームの報・連・相』(ともに中経出版)がある。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員を務め、フォード・モーターのアラン・ムラーリー社長などグローバル企業のCEOをコーチしたマーシャル・ゴールドスミス氏とも親交が深い。


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