ホンダのカチ割りコンロッド、そうか、割るのもありなんだ
2005年07月14日

 「おおっ、確かにぴったりはまる」。コンロッドをいじってみて納得した。ホンダが秋に発売する次期「シビック」に搭載される排気量1.8リットルエンジンのコンロッドだ。ピストンからクランク軸に爆発力を伝えるコンロッドは、ロッド、キャップの2部品を組み合わせて作る。このロッドとキャップ、見た目では分からないが、正しい向きに合わせると、ぴったりと吸いつくようにはまる。ところが間違った向きに合わせると、どう押しつけても落ち着かない。ハマグリの貝殻を合わせるようなものである。

hamadaphoto

▼「カチ割り」というより「引きちぎり」

  これは最近増えてきた「カチ割りコンロッド」の特徴だ。ロッドとキャップを一体で鍛造し、それを割る。割れた面は自然にできたギザギザの面だから、もう一度組み合わせれば、横にずらそうとしても動かない。

  せっかく一体で作ったものを割らなければならないのは、ここに1本の真っ直ぐな棒ではないクランク軸を通すため。従来は「割る」のではなく、別々に作っていた。普通の加工法だから、接合面がきれいすぎて、横から力がかかった時にロッドとキャップがずれやすい。そのずれを防止するために工夫が必要だった。

  カチ割りコンロッドは。英ジャガー、独フォルクスワーゲン、日産自動車などが使っているからホンダのオリジナルではない。ホンダ自身も「レジェンド」や2輪車の一部はこのタイプだ。「現場第一」の本コラムとしては、現物をいじらせてくれたホンダに敬意を表して、このタイミングで取り上げる。

  「カチ割りコンロッド」の名前が定着しそうなのは困ったものだが、鉈(なた)やアイスピックのようなもので割るのではない。円錐形の斜面のあるクサビを穴の部分に押しつけ、穴を押し広げるようにして割る。穴の縁をアップにして見れば引っ張られることになるから、正確には「引きちぎりコンロッド」だ。割ろうとする部分にはあらかじめ傷をつけておくので、割れる場所は大まかには予測できる。

  狙いはコンロッドの軽量化だ。ホンダは新エンジンでコンロッドを13%軽くした。エンジンからの力を直接伝える部品だけに、ここでの軽量化は最終的には燃費に大きく効く。これは材料の強化などを含めた数字だが、カチ割りコンロッドの貢献は大きい。

  ロッドとキャップはボルトで固定する。ボルトというものは、締めつける方向には強いのだが、そうでない方向には全然だらしない。ロッドとキャップを離そうとする力にはボルトで十分抵抗できるが、横にずらす力がくるとお手上げだ。ピンなど別の部品を持ってきて、横にずらす力を分担させることになる。そうなれば余計な部品は増えるし、それを受けるためにコンロッド自身も大きくなる。カチ割りコンロッドにはそうした無駄がない分だけ軽くできる。

▼ものづくりなのに「成り行き任せ」

  「割る」という工法は現代のものづくりではガラスくらいにしか使わない。“割れ目”がどこに向かっていくかは予測も制御もできず、成り行きに任せるしかないからだ。これでは寸法、形状を管理できない。図面に描くこともできない。

  このタブーをカチ割りコンロッドは破った。割れた面はギザギザで、どのようにギザギザかは製品一つひとつで違う。「成り行き任せ」が量産の手段として再評価されることになる。工作精度を厳しく数字で縛ってきた現代のものづくりに、ちょっとだけゆとりができる。新しい進歩のきっかけになるかもしれない。

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 R30氏の記事で知りました。「2005年 東京国際自動車会議」のサイトで、コラムと称して実質的には4人の専門家によるブログの開設が決行された... [続きを読む]



コメント
投稿者 行岡 雅洋 : 2005年07月15日 03:07

「成り行き任せ」という言葉に引っ掛かります。
いわゆる「カチ割りロッド」を設計、製造したことがある人は理解していると思うのですが、破断面が、必ずぴったり合うようにするために、材料の管理、ノッチ作成の管理、破断プロセスの管理等、色々な管理が必要であり、決して「成り行き任せ」ではありません。
図面上に、寸法として明記できないからといって、「成り行き任せ」はひどいんじゃないんですか。

投稿者 浜田 : 2005年07月15日 13:12

>行岡さん
 『日経ものづくり』の浜田です。ご意見ありがとうございました。「成り行き任せ」が「ひどい」とお感じになったのならば、お詫びいたします。ただ、ここではものすごく褒めた意味で使っていることをご理解いただきたいと思います。寸法そのものについては最小限管理するだけで、最大の結果を出していることに、私は感動しているのです。なお、材料の管理の話もうかがっておりましたが、割愛させていただきました。

投稿者 佐藤 勇悦 : 2005年07月16日 03:41

もの作りに関しては、全くの素人です。
「カチ割りコンロッド」には、何か日本の伝統的木造建築にも相通じる知恵を感じます。
外観は、幾何学的に形の整った建物でも、内側を見ると、天井を支える大きな梁は真っ直ぐなものは一つとしてなく、木材と木材の素質・形状に合わせ、うまく組み合わせて強度が保てるように設えてある。
しかし、それは大工の棟梁が、製材される前の木を見たときから綿密に計算された結果であるということ。設計図に現れないというのも相通じる点です。。

投稿者 たる : 2005年07月17日 14:12

本文を読む限り、『日経ものづくり』の浜田さんの真意は「ここではものすごく褒めた意味で使っていること」は一目瞭然だと思います。
物事について、感じ方は人それぞれ異なるのは理解出来ますが、今回のこれを「ひどい」というのは、余りにも短絡的な発想かと思います。

投稿者 行岡 雅洋 : 2005年11月13日 07:50

久々に、このコラムを見ましたら、自分の投稿文にご返事をいただいていることを知りました。
どうも、ありがとうございます。
ところで、褒めているから、どうのこうのいうのは、勘弁してください。
材料の管理の話もホンダさんに聞いたなら、ロッド大端部ボルト周りの形状、ノッチを入れる前の機械加工しろの設定などなど、設計現場でも製造現場でも、決して成り行き任せにしないよう、管理をしているという話も理解されたものと思います。その過程(設計から製造)を担当し、問題点を一つ一つつぶしていった経験をしたものにとって、カチワリロッドは成り行き任せといわれると、ムッとします。
まぁ、浜田さんと話をされたホンダの人が、設計現場や製造現場の人とは考えにくいので、(多分、広報?)もしかしたらホンダの人が成り行き任せとかいった言葉を使ったのかもしれませんが。その場合はまぁ、しょうがないです。その場合は、現場にも足を運んでくださいとしかいいようがないですね。現場の人間に、褒めているから成り行き任せといわれるのを我慢しろ、なんて、言うことができないと、そのときに理解していただけるかもしれません。


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