1人が2台をまとめて運転、人口減少時代にはこれくらいのことをしないと
2005年08月18日

  今日当たりピークであっても不思議ではない。日本の人口の話である。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の人口は2004〜09年を頂点として減り始める。いや、時制がおかしいな。もう2004年は過ぎているではないか。

  総人口はそろそろピーク、生産年齢人口は既に減りつつある。「働く人が足りなくなる」のは1つのビジネスチャンスだ。先の読める技術者は、もう動き出した。

▼求む、トラック野郎

  深夜の関越自動車道、異様に車間距離を詰めて走る2台のトラック。よく見ると2台目の運転台には誰もいない。ハンドルだけが生き物のように動く。

  怪談ではない。大和トランスポート(富山県小矢部市)が開発した2台連結のトラックだ。運行試験を始めたばかりだから、運が良ければ目撃できるだろう。

hamadaphoto

  練馬インターチェンジで一般道に下りると、待ち合わせていたもう1人の運転手が現れる。力を合わせて2台を分離し、それぞれ別の目的地に散っていく。

  2台走らせれば運転手が2人必要だ。当然だ。フルトレーラーにすれば1人で済むのだが、都内で細かい配送ができないので、小型のトラックに積み替えることになる。結局、フルトレーラーのほかに2台のトラックと、積み替えの施設が必要になって、人もお金も損をする。

  それでも大和トランスポートには人を減らしたいというニーズがあった。トラックの運転は人の集まりにくい過酷な労働。人口減少の影響をほかの業界に先駆けて受け始めている。

  連結する方法は、がっかりするほど簡単だ。フルトレーラー用の連結器をそのまま流用した。2台目のステアリングがフルトレーラーと違って普通のトラック用だから、それを操作するロッドは新設計して、つけ加えた。

hamadaphoto

  2台連結はフルトレーラーに比べるとムダが多い。単独で走る時だけのために2台目にもエンジンや運転台が必要だ。だからトラックメーカーも手をつけてこなかったのだろう。しかし、ニーズは変わった。多少のムダよりも、人口減少の方が差し迫った課題になった。

  失礼ながら、大和トランスポートは地方の一運送業者であってトラックメーカーではない。「街の発明好きの運送業者が」というローカルな話で片づけられてしまったかもしれない。ところが、初めは認可を渋っていた国土交通省も、実績が出るにつれて協力的になってきた。トラックはいすゞ自動車製を改造したもので、同社の協力を得た。申請のために必要な各種の試験は「第三者でないと」という国交省の要求によって、同社でなく日産ディーゼル工業のテストコースを使った。政府や大手のトラックメーカー複数を巻き込んだ全国区の話になってきた。

▼リーダーシップを取るのはどっちだ

  「日経ものづくり」8月号のために、人口減少に立ち向かう企業を取材して回った。気になるのは「誰が引っ張っているか」だ。ここで取り上げた大和トランスポートの話から分かるように、運転者不足に対応したのは、運送業者であってトラックメーカーではない。ほかの例を挙げても、警備員の不足に対応したのは、警備会社であって警備ロボットのメーカーではない。料理人の不足に対応したのは、レストランのオーナーであって食品機械のメーカーではない。既に動いている運送業者、警備会社、レストランのオーナーには拍手を送る。一方で、使い手のニーズを先読みするのが仕事であるはずのメーカーで「人口減少」に対する感度が足りないのではないのか…ちょっと心配になってきた。

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 今日10/19のNHKニュースで小型トラックを連結運転をし、人件費、燃料費を3 [続きを読む]



コメント
投稿者 佐藤太丈 : 2005年08月18日 08:14

現場の要求にしぶしぶでも応じるようになった国土交通省もさることながら、しぶとくニーズを追求した大和トランスポートと一緒になって立ち上げたいすゞ自動車の「合作コロンブスの卵」に拍手喝采をお送りいたします。まだまだ我が国も捨てたものではありませんなあ。

投稿者 : 2005年08月18日 08:43

 メーカー勤務の私は、会議や研修などで「お客様の真のニーズを掴もう」「革新的なアイデアを出そう」と議論する機会が多いのですが、今回のケースなど休憩中の喫煙コーナーでの雑談に終わらせてしまいがち、と多いに反省いたしました。「真のニーズ」への危機感の違いと理解した次第です。
 それにしても、見事なケーススタディです。ありがとうございました。

投稿者 瓜林 正博 : 2005年08月18日 09:04

我々メーカーは、これまで既存の枠内で省力化やコストダウンに取り組んできた。またこの面の成果もある程度上がってきており、そう間違っていたとは思えない。確かに今後は人工減少等省力化対策への視点がより重要性を増すことになるが、これを追求すると安全や初期や維持管理コスト等技術面だけをとっても課題は多いと感じる。もう少しユーザーのニーズを見て行くべきか。

投稿者 石渡 英五 : 2005年08月18日 10:49

このアイディアそのものは、かなり以前からありました。小生がかつて勤務していた石油業界でも、陸上輸送の主力はかつての貨車輸送からタンクローリーになっています。タンクローリーの業界でも、効率化と同時にドライバーの確保も課題の一つです。長距離輸送の際に、例えば高速道路だけでもこの方式で運行が可能になるとかなりの効率向上に繋がります。しかしながらその前提としての運行安全性に関する技術の確立が重要であることは言うまでもありません。本件を推進している運送企業に依存するだけでなく、各メーカーあるいは自動車工業会も積極的にサポートすべきと考えます。小職は目下IT産業に籍を置いていますが、当業界も何らかの貢献が出来ないか企画してみようと
考えています。

投稿者 角 : 2005年08月18日 12:46

目に見えての人口減少が現れた時は、既に遅しとなるのでしょう!!
福祉関係に従事している仕事柄、確かにニーズに対するメーカーの姿勢には疑問を持ちます。

メーカーは市場・現場の危機感やニーズをキャッチしづらくなったんでしょうか??

それとも利益市場主義が最優先でメーカーにもゆとりが無くなって来ているのでしょうか?

投稿者 りゅうパパ : 2005年08月18日 14:35

大和トランスポートの素晴らしい行動力に脱帽です。実際に走っている姿を見てみたい。発想はあっても実現させるのは非常に困難なことばかりだったと思います。お堅い役所(国交省)を協力させた情熱たるや、感服の極みです。心よりエールを贈ります。

投稿者 モリヒデキ : 2005年08月18日 17:51

久しぶりに胸のすく思いで拝読いたしました。「がっがりするほど簡単な」仕組みに拍手。メーカーに勤めるわが身にとっては、大いなる反省材料です。ユーザーの身になって考えるということはどういうことか、再考を促す貴重なレポートです。

投稿者 若松芳雄 : 2005年08月18日 19:33

人口減少に伴ってこのような事例が起こったという論調は、10年先には就業人口が減るためその時には、ある意味ではそうと言えるかも知れない。むしろ、私は、最近トラックの運転手さん、警備員さん及び料理人さんになる人たちが少なくなっているからではないでしょうか。いずれの職業も厳しい労働条件と思われる。従って、なり手が少ないが故にそのような業をしている会社が考えつくのでなかろうかと思う。メーカー側に「人口減少」に対する感度が少ないという論調も又異論がある。メーカーというのはお客さんのニーズを先取りして作るものであって今回のニーズは人口減少ではなく運転手、警備員及び料理人のなり手がいないのでユーザー側から言われるまでメーカーでは先取りし様がないと思う。

投稿者 4ランナー : 2005年08月19日 15:29

日本国内においてサービスを行う以上、「人口減少社会」は避けては通れません。本来なら企業(組織)は、利益追求の前に「人口減少社会」にむけての対策を考えていくことが必要と私は思います。財政状況が悪い組織が多い厳しい現実社会において、管轄役所や関係するメーカーを納得させられるような組織が負担可能な廉価な技術を持ち、組織内部でその技術を共通理解して社会に貢献しようとする大和トランスポートの取り組みに拍手です。


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