燃料電池車危うし、ただし巨大燃料電池が実現すれば
2005年12月08日

  若松へ行った。高さ60mという巨大なやぐらの中、電源開発(J−POWER)が石炭をガス化する実験を進めている。2006年の実験終了に向け、成果が急速にまとまってきた。うまくいけば、燃料電池車の今後を変えるかもしれない実験だ。筑豊炭田の積み出し港だった北九州市若松区、石炭とのつながりは切れそうにない。

  実験は、石炭ガス化燃料電池複合発電という大きな目論見の一部だ。できたガスを燃料電池に送って発電する。その排ガスをガスタービンに送って発電する。そのまた排ガスでお湯を沸かし、蒸気タービンに送って発電する。あれ、「発電する」を3回書いてしまった。しつこくて済みません。

  いや“3回”が肝心なのである。残りを使って発電することを繰り返した結果、発電効率は60%に達する。つまり燃料が持つエネルギーの60%を電力に変えられる。現在の石炭火力発電所が高くても44%弱、ガス火力発電所を含めた最高が50%だから、これは立派な数字だ。

▼エラいのは技術なのか燃料なのか

  「開発した技術は、燃料が天然ガスなので地球温暖化を抑制できます」という発表をよく聞く。そりゃ、天然ガスは水素が多くて炭素が少ないのだから、出てくる二酸化炭素は少なくて当然だ。「技術がエラいんじゃなくて燃料がエラいんだけどなあ」と思いつつ、いつも記事を書いている。

  そんなわけだから、石炭を使う技術は気になる。ほかに燃やすものがなくなれば、何だって燃やすしかない。何百年先のことになるかは分からないが、地球が温暖化しようがどうなろうと、最後には化石燃料は使い切ることになるだろう。時期が前後するだけのことで、石炭だって使わざるを得ない。石炭は炭素が多いから、燃やせば当然二酸化炭素を多く出す。効率を上げることがものすごく大切だ。

▼そんな先のことは分からない

  若松の施設には肝心の燃料電池がない。この件に関してJ−POWERは見通しのよいところを見せた。「その時に使えるベストなものを」と、燃料電池を切り離して考えたのである。このプロジェクトに着手したのは1995年。大きなプラントで信頼性の確認が必要なこともあり、どうしても10年掛かりになる。「そんな先のことは分からない」というわけだ。

  読み通り、10年の間に燃料電池の技術は大きく進歩した。J−POWERが音頭を取らなくても、各社が自発的に開発競争を進め、95年には想像もつかなかった水準に達した。切り離した戦略は“半分は”正しかったと言える。

  しかし、問題は残りの半分。出揃った燃料電池は自動車向けや家庭用コージェネレーション向けがほとんど。今のところ、石炭ガス化燃料電池複合発電にそのまま使えそうな燃料電池は現れていない。

▼求む、巨大燃料電池

  自動車用燃料電池の開発者にとって、石炭ガス化燃料電池複合発電は潜在的な競合相手である。発電効率60%などという発電所が現れると「燃料電池車より電気自動車の方が結果として効率が高いではないか」という声が大きくなることは必至だからだ。

  慶応義塾大学教授の清水浩氏が試算したところによると、回生ブレーキなどを含めた電気自動車の総合効率は40%だという。清水氏は電気自動車の開発を進める立場にあるから“電気自動車寄り”の数字ではあるのだが、今の定説と言ってよい。

  燃料電池車は車両単体の効率は高いのだが、化石燃料から水素を取り出す場合には、その工程での効率が低く、総合効率はどうしても下がる。トヨタ自動車の試算では、現行のもので29%、将来の目標は42%だという。40%対42%――いい勝負ではないか。

  清水氏の試算では、発電効率50%を前提にしていた。石炭ガス化燃料電池複合発電が実現して発電効率を60%が実現すると、総合効率は48%になる。これは燃料電池車にとって強敵だ。

  石炭ガス化発電所に使う燃料電池を開発するためのハードルは高い。規模は自動車用の1000倍に近い巨大なものだし、発電所だから長期の連続運転に耐える必要がある。作動温度として1000度を選ぶにしても800度を選ぶにしても耐熱性の水準は高い。

  一方、過当競争の自動車用と違って今のところ誰も手を挙げていない。リスクは大きいが“狙い目”である。開発競争の結果、SOFC(固体酸化物型燃料電池)をはじめ、ここに転用できそうな技術は揃ってきた。どなたか、リスクを冒してみませんか。

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コメント
投稿者 瓜林 正博 : 2005年12月08日 08:54

本欄特に技術系として楽しく読ませてもらっております。今年で終了とは、もったいなくテーマを変えて技術系のものを乗せて下さい。
ところで燃料電池や電気でガソリンを使用しない場合、今の特定財源問題は、どうなるのでしょうか。何故自動車関連の税金が多いか、これが適正化国民的議論をする必要があるように感じます。この点緊急課題であり、マスコミとして主催をして頂きたいと思います。

投稿者 岩並 清隆 : 2005年12月09日 21:37

浜田さんのエネルギー効率に関する正確な記述は、貴重だと思います。
多くのマスコミが手放しに近い論調でで燃料電池車を賞賛することは問題だと思っていました。大量の水素を安価で高効率に得ることこそ、燃料電池車の最大の課題です。
瓜林さんの前半にも大賛成です。「皆が読める正しい技術情報」は、ぜひ続けてください。

投稿者 関根奉允 : 2005年12月11日 04:46

電源開発がこれまで若松で開発してきた技術は世界に誇れるものが多い。その点では感謝している。しかし、石炭ガス化に関しては従来からの技術にbreakthroughがあったとは明確に報告されていない。その点に疑問を持つ技術者は結構多いので、breakthroughを何処かで明確にする必要があるように思う。


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