支援はならず、されどメッセージは残る トヨタの米販売価格値上げ
2005年07月07日

  トヨタ自動車が1日に実施した米国販売車の価格値上げが各メディアで大きく取り上げられた。価格の見直しは随時行われているのだが、奥田碩会長の日米摩擦を警戒する発言があっただけに、異例の扱いとなった。値上げの対象はいずれも人気の高い車で、値上げ幅も小さいことからビジネス上、ほとんど影響はない。むしろトヨタがこの値上げに託すのは「メッセージ性」だ。

  「トヨタ、カムリ2006年モデルの価格と現行3車種の年央価格調整を発表」。米国トヨタ自動車販売が1日に出したニュースリリースは、「カムリ」など4車種の値上げ幅を列記しただけのごく短いものだった。その幅は0.7〜1.5%で、価格にすると150〜400ドル。値上げというよりも、「価格調整」(プライスアジャストメント)という表現がしっくりくる内容だ。

▼米独占禁止法抵触懸念で慎重に検討

  奥田会長が米国のゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターの経営不振を憂慮し、「価格をいじるなど(米産業に)息をつく時間を与える必要」を表明したのは4月25日。以来、トヨタ内部では侃々諤々の論議が繰り返された。当然のことながら、競争政策(米独占禁止法=反トラスト法)に抵触するのが確実な米メーカーへの「支援値上げ」はできない。ユーザーや販売店の反発も考えられる。

  それでも、トヨタは「いじる」ことを決めた。周到に準備を重ねてである。値上げ(カムリ以外は8月に改定)となったモデルは、カムリシリーズのほかハイブリッドの「プリウス」と小型SUVの「RAV4」。年に約40万台売れ、2004年まで3年連続して米市場で最多販売車となっているカムリや納車待ちが常態化しているプリウスなど、いずれも人気車種である。

  需給に応じて価格が決まるのが市場原理。人気車種のみを選んだところに、競争制限の疑念を生じさせないための配慮がにじむ。タイミングとしては、鋼材など原材料費や部品価格の上昇という、値上げを後押しする客観情勢もある。フォードは6月、今年2度目の業績下方修正に追い込まれたが、背景の1つとして資材・部品価格の高騰を強調した。

  一方、日本のメディア報道では値上げによる販売店やユーザーの反発の可能性を指摘している。だが、今回改定した「メーカー希望小売価格」のほかにも、柔軟な価格政策の手段はある。台当たり平均で2000ドルを超えているインセンティブ(販売奨励金)だ。

  値引き原資ともなるインセンティブは、車種ごとの販売状況を見ながら臨機応変に支給額が決められている。カムリなどの値上げ幅は、その10分の1程度であり、インセンティブのサジ加減で容易にユーザー還元ができる範囲だ。

▼米企業市民としての「最適調和」

  これで、トヨタ車の売れ行きが落ちるわけがない。むしろ、北米での利益拡大に若干のプラスとなる可能性があるだけで、ビジネス上の影響はゼロに近いだろう。米産業への支援にもなりようがない。しかし、波紋を投じた奥田会長の発言を受けた形となっただけに、今回の値上げは米経済界や労働組合へのメッセージとなる。つまり、「米産業の象徴」(奥田会長)に、トヨタは常に思いを馳せているというものだ。

  北米での販売は、これからも大きく拡大させるというのがトヨタの基本戦略。世界シェア15%の確保という2010年グローバルビジョンを達成するには、昨年206万台だった米国販売を50万〜60万台上乗せする必要がある。6月末には北米7番目の組み立て工場をカナダに建設すると発表したが、さらに2工場の新設も視野に入れている。

  渡辺捷昭社長は就任早々、奥田会長からの重たい宿題をまずは無難にこなした。ただし、来年には世界販売でトヨタが首位に躍進するのが濃厚なだけに、トップランナーへの風圧は一段と強まる。米企業市民としての「最適調和」は、渡辺社長が在任中、背負い続ける課題となる。

トラックバック

このリストは、次のエントリーを参照しています: 支援はならず、されどメッセージは残る トヨタの米販売価格値上げ:

トラックバック時刻: 2005年07月07日 23:13
» 気にしてるよ」と米自動車業界向けにメッセージした from 中小企業診断士が中小企業を経営する
トヨタの値上げについて、こんな記事がありました。 支援はならず、されどメッセージは残る トヨタの米販売価格値上げ この筆者は「トヨタならではの微妙な... [続きを読む]


トラックバック時刻: 2005年07月14日 17:05
» from ウェブログ図書館 業務日誌 Weblog(Blog) Library
 R30氏の記事で知りました。「2005年 東京国際自動車会議」のサイトで、コラムと称して実質的には4人の専門家によるブログの開設が決行された... [続きを読む]



コメント
投稿者 古村 浩三 : 2005年07月07日 09:15

今年の3月末に20年ぶりでニューヨーク、ボストンに行きました。Pontiacのレンタカーを借りたのですが、とにかく重く、装備も人にやさしいとは言えず、燃費も悪く大変不満足でした。そして対向車線を走ってくる車を見ると、Big3の車が連なるケースはほぼ皆無に近く、日本車の独壇場、特に乗用車については米車は見る影もありませんでした。20年前にはSecond Carとして日本車に乗っている友人はいましたが、今回お世話になった3家族の内、2家族は日本車のみ(それも複数車)で1家族は通常は日本車で、レジャー用にポルシェという事でした。彼らは口をそろえて、燃費と故障が無い事を日本車を持っている理由としていましたし、次も日本車を買うことを明言していました。

投稿者 赤瀬公洋 : 2005年07月07日 09:24

奥田さんの発言を尊重しての有言実行を行ったということだろう。
しかし、GMにしろフォードにしろハイブリッドとか燃料電池などの次世代技術が育っていないのでは、基本的な解決にはならない。すこし時間が経過すれば同じ事の繰返しとなる可能性大。
それらとは違う技術が米国自動車メーカーで育っているのか、あるいは育てられるのか。

投稿者 瓜林 正博 : 2005年07月07日 09:35

トヨタさんの世界的な競争力がなせる技で羨ましい限りです。また社内体制が盤石で優れた人材いる好循環だからこの競争力が付いた、死角はないのかと思ってしまいます。

投稿者 snark : 2005年07月07日 13:37

相変わらずトヨタは商売がうまい、と感じました。ホンダも反論などせず、黙殺していれば良かったのに。

投稿者 suden : 2005年07月08日 21:07

トヨタの強味はその哲学にあると考える。
単に収益を追求するのではなく基本的な「安全性」、「環境への配慮」、「省エネルギー」の追及など、短期意的には収益に繋がらなくても企業としての社会的な存在意義の追求こそがトヨタの強味である。
そして、そのことがトヨタ社員、ディーラー、そして私を含めた愛用者の誇りに繋がっている。


※コメント及びトラックバックをご利用する際のご注意点:
編集部が法律・条令等に違反する行為や、閲覧者に対して不快になるような行為だと判断した場合、 予告なくコメント等を削除させて頂くことがあります。










Copyright(c) 2005 Nikkei Business Publications,Inc.All Rights Reserved.